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箱根細工のおばさんは「1.2.3・・・」と呪文を唱え

ついでにもういっちょ 熱海である。
私たちは昔、ここでちとすまないことをした。・・・・・気がする。

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いわずと知れた大観光地である熱海には、
昭和の香りがプンプン漂ういい感じの物件がそこら中にある。
写真のようなスマートボールしかり、射的場しかり、フルーツパーラーしかりだ。

特に射的場は、通りかかるたびについつい立ち寄った。
夜遅くまで煌々と明かりが灯っていて、
派手な色彩の中に、どっしりと座ったおばさんが、
店と一体化してそのまま年を経た感じに、そそられた。

私たちはショッキングピンクの得体の知れないクマだの、
どきつい緑色のカッパだのといった、
古びた土人形を打ち落とすのに夢中だった。
歴史を感じさせる裸体の美女なんかもあったが、
これは打ち落としてももらえず、
何故か黄色い怪しい笑顔の犬かなんかとすり替えられていた。
でも通ううちに、無理を言って美女をいただいたりもしたものだ。

で、ある日立ち寄ったのが、歴史的建造物ともいえる土産物屋だ。
薄暗い店内で、これまた歴史の深さを醸し出す店番のおばさんは、
箱根細工のからくり箱の説明を始めた。
「ここをこうして、こう引っ張ると、1,2,3、ほらね、引き出しが開くんです」
横板を少しずらす、上に上げる、
上フタをずらして反対側を下げると中に引き出しがあって・・・・・

彼女はこうして何百回、何千回と、同じ説明をしたのだろう。
見本の箱根細工は、ほんのり黒ずんでしっとり肌に馴染み、
余計な角が取れたいい感じになっていた。
私たちが歓声を上げると、
おばさんは嬉しそうに「1,2,3・・・」と唱えながら、
何度もからくり箱を閉めてはふたたび開けて見せた。

こうした営業努力の賜物で、私たちもつい衝動買いを決め込んでしまったのだが、
おばさんによれば、見本はひと昔前の作品で、現在扱っている商品は
からくりが一段階少ないのだという。
そうなると、何だかもの足りなくなるのが人の常。
私たちはこの見本こそが欲しいのだ、と粘り、
おばさんはしばし考え込んだ末に、不承不承それを私の夫に手渡した。

その時は、ただお宝を入手したという喜びに弾んだものだが、
裸体の美女も手垢の馴染んだ箱根細工のからくり箱も、
おばさんたちと共に人生を歩んできた「同志」だったに違いない。
他人が気まぐれにそれを奪い取ってはいけなかったのではないか、と今は思うのだ。

大切にせねば。

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そんな訳で、この日の私が食べたのは、

・オムライス(2人分をいっぺんに皿に載せたまん丸で、ケチャップの笑顔付き)
・豆腐ステーキ
・カブと玉ねぎとニンジンごろごろのスープ。

     ガーリックの効いた豚肉入りで、オムライスが秀逸。
     私が作ったんじゃないけど。

by sibamataumare | 2008-02-26 22:55 | 人物伝